【ASEAN:ASEAN諸国の知的財産事務所が地域商標制度に焦点を当てた会議を開催】

バンコクで2日間に亘りASEAN諸国の知的財産事務所が開催した会議で地域商標登録制度が議題のトップとなった。
参加者はEUが資金提供するARISE + IPRのプログラムによって実施される実現可能性調査の範囲について議論した。これは国内商標制度について、法的基盤、運営体制、料金体系、利害関係者の利益、国内商標制度への影響などの側面を考慮するものだ。ARISE + IPRは、今やIP集約型産業が東南アジアの経済成長の中心になっているとした。知的財産権保護は、イノベーションやアイデア、ビジネスの商業的価値を保護することと同義である。
知的財産権を強化しようとするASEAN全体の方針と制度は、ASEAN全体の国内外の事業を支援することになるだろう。
地域商標制度は、ASEAN加盟10ヶ国全てにおいて登録までの期間を短縮し、手続きをより確実にし、最終的には地域での事業運営のしやすさを向上させ、新規投資を促進する。
現在、企業はASEAN諸国毎に個別の商標出願を提出するか又はマドリッドプロトコル加盟国に対しては国際出願を検討することが求められている。地域商標制度は、EU及びフランス語圏のアフリカ諸国で既に機能している。
ARISE + IPRのプログラムリーダーであるIgnacio de Medrano Caballero氏は同会議について「ASEANにおける地域統合の道筋とIPシステムの収束、そしてその結果としての経済的利益への大きな前進だ」と述べた。
その他喫緊の課題としてASEAN商標審査ガイドラインの更新及びASEAN知的財産アカデミーの設立が含まれていた。
地域商標制度に関する実現可能性調査は、ASEAN諸国における知的財産規制の地域統合を促進するため、EUの資金によるARISE + IPRによって実施されている一連の5年間の活動の1つである。
ARISE + IPRプログラムは、5年間で550万ユーロを投じ、知的財産(IP)協力を通じて地域統合を支援し、知的財産制度の向上を目的としている。
The Nation 2019年2月18日付記事参照

【ミャンマー:商標法及び意匠法が制定される】

ミャンマーには1914年のビルマ著作権法以外に商標法などの知財に関する法律がなく、外国人投資家にとってミャンマーにおける知的財産権の保護は不十分であった。

しかし現在、教育・科学・技術省がミャンマー連邦法務長官府及び他の省庁と協力して4つの知財法案(商標法、工業意匠法、特許法、著作権法)を起草しており、2019年1月30日、議会は商標法及び意匠法の2つを法律として可決した。

しかし、同法律はミャンマーの大統領が通達により施行日を決めると規定されており、現時点では施行されておらず、予定日も未定である。

商標法は従来の先使用権ではなく、先願主義で実施される。知的財産所有者協会によると、ミャンマーには現在60,000件の商標が登録されているが、商標法施行後には、登記法に基づき登記済の商業商標所有者においても、商標法に基づき改めて出願する必要がある。

【マレーシア:新たな商標のフロンティア】

マレーシアは、1989年6月27日に承認された標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書(マドプロ)への加盟手続きを行っている。マレーシアは同議定書に加盟していないアセアン加盟国2ヶ国の内の1ヶ国であり、今回の加盟はアセアン知的財産権活動計画2011?2015年へのマレーシアの誓約に連なる戦略的動きである。マドプロへの加盟に基づく2019年商標法案では、音、匂い、色及びホログラムのような非伝統的商標の保護、マレーシアにおける実体審査期間12?13ヶ月を9ヶ月以内へ変更すること、調停による異議申立手続の処理等の規定が期待される。
現在アセアン加盟国の中で同議定書に加盟している国はブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナムの8カ国である。

参照:2019年3月2日付New Sunday Times
https://www.nst.com.my/…/2…/03/465405/new-trademark-frontier

~TPP11に伴う日本の著作権法改正④~

TPP11に伴う日本の著作権法改正?TPP11に伴う日本の著作権法改正?TPP11に伴う日本の著作権法改正?に続く、最終回の今回は海賊版対策の一方、利活用の視点も重要であることにフォーカスして述べていきます。

著作権法の改正には、大きく2つの流れがあります。1つは著作権を強化するものであり、今回の改正や海賊版対策などがその一例です。もう1つは著作権を制限し、利用促進を図るものであり、2019年1月1日に施行された「権利制限規定の拡充」などがそれにあたります。

海賊版対策については、18年にサイトブロッキングの導入が議論されましたが、「通信の秘密」が侵害されるなどの強い反対意見もあり、立法化には至っていません。また、静止画ダウンロードの違法化については、違法化の対象が「海賊版」から「著作物全般」のダウンロードに拡大され、専門家や世論の反対も強まったことから、見直し協議がなされています。「アクセス警告方式」についても、懸念が示されています。

方法論についての検討は必要ですが、海賊版のように違法性が高い行為に対しては、規制強化が必要でしょう。さもなくばコンテンツの作り手が減少し、ひいては利用者もコンテンツを享受できなくなるといった悪循環が生じ得るからです。

一方、著作物の利活用の観点からは、権利処理を容易にし、あるいは、権利処理が必要な場面を限定していくことも必要です。著作権を強化していくことには弊害もあり、今後は、こうした利活用の視点がより重要となっていくことでしょう。両者のバランスを保てるような取り組みが望まれるところです。

~TPP11に伴う日本の著作権法改正③~

TPP11に伴う日本の著作権法改正?TPP11に伴う日本の著作権法改正?に続き、法改正による権利処理難化という副作用について以下に述べます。

保護期間の延長に伴う影響の一例としてインターネットの電子図書館、青空文庫が挙げられます。同文庫では、1万1000点を超えるPD作品を電子化し、無償提供しています。専用アプリのほか、電子書籍リーダーでも閲覧できます。2019年1月にPD化予定の作品の公開準備を進めていたようですが、今回の改正により、公開が20年先延ばしとなった作品も少なくありません。読者が作品を無償で閲覧できないばかりか、二次利用にも影響が及び得る事態となっています。

一方、日本が保有する様々なコンテンツの横断検索ポータルとして、ジャパンサーチの開発が進められています。正式公開は2020年の予定ですが、現在のベータ版でも約79万点のコンテンツの横断検索が可能です。権利処理が容易となれば、さらなるコンテンツの拡充も期待できるでしょう。

保護期間の延長や一部親告罪化といった著作権の延長・強化により、一部の著作物については、著作権者の収益増加が期待できることは言うまでもありません。しかし一方で、保護期間の延長により、無許諾で利用できる著作物は相対的に減少します。そればかりか、孤児著作物の増加とそれに伴う権利処理の難化という副作用も懸念されています。

時間の経過とともに、著作権者やその所在が不明な作品は増加する上、著作権者の死亡によって相続人に権利が分散するなど、権利関係も複雑化していきます。許諾を得るために著作権者の連絡先の調査、連絡・交渉なども必要となるでしょう。 著作物は利用されてこそ意味があります。利用されない著作物は消えゆく運命であり、著作者もそれは望んでいないはず。権利を守る傍ら、著作物の利活用を図るため、権利処理を容易にする仕組み作りもまた必要ではないでしょうか。

~TPP11に伴う日本の著作権法改正②~

前回の?TPP11に伴う日本の著作権法改正??で述べた改正点において、懸念が特に強かった点につき以下に補足します。

保護期間の延長

保護期間の延長についての改正は、施行時点(2018年12月30日)において保護期間満了前の著作物などを対象としています。例えば2018年には山本周五郎の作品がパブリック・ドメイン(PD)となりましたが、著作権は復活しません。一方、2019年には藤田嗣治、21年には三島由紀夫の各作品のPD化が予定されていましたが、これらの作品のPD化は20年先延ばしとなりました。

また米国、カナダ、オーストラリアなどとの関係では、著作権の保護期間は最長で、3794日(約10年5カ月)加算され、著作者の死後約80年5カ月までとなります。これは「戦時加算」(第2次大戦の戦勝国の著作物について、大戦中の著作権者の利益回復のため、戦時期間を著作権の保護期間に加算する制度)によるものです。日本ではTPPの交渉中、「保護期間の延長は、戦時加算の撤廃を条件とすべき」との意見もありました。しかし、戦時加算はサンフランシスコ平和条約上の義務であることから撤廃は容易ではありませんでした。

著作権等侵害罪の一部非親告罪化

著作権等侵害罪の一部非親告罪化については、刑事罰を恐れて二次創作が萎縮するといった懸念が寄せられ、その結果として二次創作やパロディは非親告罪化の対象外とされました。ただ、これらは適法化されたわけではなく、従来どおり親告罪とされています。

日本では従来、二次創作やパロディについては、著作権者が黙認(見て見ぬふり)してきましたが、刑事告訴が行われ、刑事手続の対象とされるリスクは依然残されています。

~TPP11に伴う日本の著作権法改正①~

2018年12月30日、環太平洋11カ国におけるモノ、サービス、投資等の自由化を目的として、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(通称 TPP11)が発効し、これに伴い、同日、日本の著作権法が改正されました。

今回の著作権法改正は5項目であり、概して著作権の保護強化を図るものです。
デジタル化の進展に対応するため、アクセスコントロールの回避規制や配信音源の二次使用に対する報酬請求権などについて、また、やや小規模な制度拡充に留まりはしましたが、法定損害賠償制度についても制度拡充が図られました。

(1) 保護期間の延長
著作権の保護期間は、原則「著作者の死後50年まで」から、原則「死後70年まで」に延長されました。また、実演家やレコード製作者の権利の保護期間も、同様に、50年から70年に延長されています。なお、映画の著作物の保護期間は、従前どおり「公表後70年まで」です。

(2) 著作権等侵害罪の一部非親告罪化
著作権侵害は刑事罰の対象です。法定刑としては他国と比べても重いものです。しかし、親告罪であって、刑事裁判を行うには、著作権者等による刑事告訴が必要でした。今回の改正では、海賊行為のような正規品市場に影響のある罪質が重い行為について非親告罪化されました。

(3) 法定損害賠償制度
著作権を侵害された著作権者は、侵害者に損害賠償請求できます。著作権者はその際、損害額の立証が必要ですが、立証は容易ではありません。このため、立証負担の軽減を目的として定められる、損害額の推定または算定に関する規定が1つ増え、侵害された著作物が著作権等管理事業者(JASRAC、NexToneなど)により管理されている場合には、その使用料規程を損害額の算定に利用可能とされました。

(4) アクセスコントロールの回避規制
著作物の無断複製・利用を防止する保護技術には、?音楽、映像、ゲーム等の著作物の無断複製を防ぐ技術的手段(コピーコントロール)、?衛星放送のスクランブルのような、著作物の視聴等を制限する技術的手段(アクセスコントロール)などがあります。改正前は、コピーコントロールの回避のみが規制対象でした。しかし、今回の改正でアクセスコントロールの回避も規制対象となりました。

(5) 配信音源の二次使用に対する報酬請求権
放送事業者がCDを利用してテレビ・ラジオ放送を行う場合には、日本レコード協会や日本芸能実演家団体協議会が放送事業者から音楽使用料などをまとめて受取り、レコード会社、歌手、演奏家等に分配しています。改正前は、レコード会社や実演家には、CD等の媒体が利用された場合に限り二次使用料が支払われていましたが、今回の改正で配信音源も二次使用料の対象に加えられました。

【日本:特許庁のスタートアップ施策】

日本の特許庁では、スタートアップを支援するため5つの施策を行っています。

その一つとして挙げられるのが、知財を活用した海外展開を支援する「ジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)」です。これは海外のアクセラレーターと連携し、国内のブートキャンプ、現地メンターによるメンタリング、現地イベントの出展を提供するもので、2018年度は、シリコンバレー、深セン、ベルリン、ASEAN(インドネシア・タイ・マレーシア)で実施されました。

スタートアップの多くは、知財に関心を持っても何をすればいいのか分からないというのが実情ではないでしょうか。特に海外展開を視野に入れるとその不明瞭さはより深刻です。しかし、この特許庁のスタートアップ施策はそのような課題の解決の一端を担うものとして期待されます。

【ミャンマー:知財法公布、模倣対策に寄与する見込み】

ミャンマーで、日本政府が整備を支援した新たな知的財産関連法が5月24日に公布されました。ミャンマーでは近年、企業ロゴの不正使用や模倣品が横行しています。新法では著作権や特許の侵害に対する罰則が設けられ、進出企業の模倣品対策などに寄与することが見込まれています。

【タイ、ベトナム:「監視国」として指定される】

米国通商代表部(USTR)が2019年4月25日、2019年版スペシャル301条報告書を公表しました。これは調査対象国のうち、特に懸念のある国を警戒レベルの高い順に「優先国」「優先監視国」「監視国」に指定するものですが、2018年に引き続き、今回も優先国に指定された国はありませんでした。

知的財産保護が不十分だとされる「監視国」には25カ国(タイベトナム、バルバドス、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、ギリシャ、グアテマラ、ジャマイカ、レバノン、メキシコ、パキスタン、パラグアイ、ペルー、ルーマニア、スイス、トルコ、トルクメニスタン、アラブ首長国連連邦、ウズベキスタン)が指定されました。

日本はいずれのリストにも指定されていませんが、日本の新薬創出等加算(Price Maintenance Premium)の基準変更は、外国企業を競争上不利な立場に置く深刻な懸念事項だと指摘されました。