例えば商標、著作、意匠、発明、企業秘密などの知的財産(知財)は多くの企業にとって非常に貴重な資産である。それは市場における優位性及び他企業との差別化をもたらす。そのため、会社の管理者が自社のIPポートフォリオを正しく認識して管理することが重要である。
企業の知的財産は一般的に労働者によって開発又は発明されるので、賢明な企業はそのような知財が企業に属することを明確にするために必要な契約を労働者と交わすべきである。それを怠った場合は大きな問題に繫がることもある。例えば、企業が第三者に対して知的財産権を主張することができない可能性があり又は勤務時間内に同社において開発又は発明した労働者との間に問題が起きる場合もある。
タイでは、労働者により開発又は発明された知的財産の所有権は各々の知的財産関連法により異なった規定がなされている。契約書が関連する全ての問題に適切に対処し、全ての関連法に準拠していることを確認するため、経営者はその違いを理解する必要がある。
◆著作物の所有権
絵画、写真、コンピュータソフトウェアなどの著作物について、使用者と労働者の間で書面による特段の合意がなされていない場合、著作権法は著作物の所有権を開発又は発明した労働者に与えている。著作物が労働者に属している場合、使用者は事前に雇用契約に定められた当該著作物の頒布のみを認められる。一方、企業が著作物を創出するために第三者を雇用した場合、再び他の同意を交わさない限り当該著作権は使用者に属する
◆企業秘密の所有権
企業活動に有用な、誰にも知られていないノウハウ又は生産工程などの企業秘密について、営業秘密法は企業秘密としての保護に値する営業情報を発見、発明、編集又は作成した者を当該秘密の保持者と見做すことを規定している。しかしながら、雇用関係内における企業秘密の創出については具体的には取り上げられていない。したがって、両当事者が特段の合意をしない限り、労働者が所有者であると見做される可能性がある。
◆商標の所有権
同様に、労働者による商標又はブランド名の創作について、商標法では特に定められていない。それゆえ、使用者及び労働者間に特段の定めがない場合、当該商標又はブランド名を創作した労働者が所有者であると主張することもできる。
◆特許の所有権
新型コンピュータ、新しい食品保存方法などの発明及び製品の形状などの設計について、当該労働者との雇用契約に特段の定めがない限り、特許法は労働者が勤務の範囲内で開発した発明又は設計について特許を受ける権利を使用者に与えている。たとえ雇用契約書が発明や設計の問題に言及していなくても、労働者が自らの職務を通じて入手可能になった手段や情報を使って発明や設計を創出したならばこの規定が適用される。
このような場合、労働者が特許受ける権利を得られなくても、当該労働者には発明者または創作者となる権利は依然ある。使用者が当該発明又は設計から恩恵を受ける場合、労働者が通常の収入に加えて特別な報酬を得る権利もある。特別報酬に関するこの権利は雇用契約で削除することはできない。
◆知的財産所有契約
要約すると、著作物、企業秘密、商標が企業に所属する労働者により創出された場合、書面による特段の合意がない場合、所有権は自動的に労働者に帰属することになる。そのため、労働者が創出した知的財産の所有権について、企業及び労働者の間でなされた合意を明らかにすることが非常に重要である。
知的財産の所有権を雇用契約で扱うべきか又は別の契約で定めるべきかを理解していない企業もある。特許法は「雇用契約」に特段の定めがない限り、労働者の発明に対して特許を申請する権利は使用者に帰属すると明確に規定している。しかし、その他の知的財産法はこの問題に関して「合意」のみを要件としているため、労働者が創出した他の知的財産については互いの合意のみで対処することができる。使用者は、労働者が創出した全種類の知的財産について、統一した規定を雇用契約に含めることを検討するべきである。
加えて、雇用の場合、商標法及び営業秘密法は第三者によって創出又は発明されたものの所有権が自動的に会社に帰属することを明確に規定していない。したがって、雇用契約でも同様の知的財産所有権規定を明確に扱うことが推奨される。
◆知的財産の保護及び発展
特許法が設計や発明を行った労働者に特別な報酬を与える唯一の知的財産法ではあるが、企業は著作物、商標及び企業秘密を創出した労働者に同様の報酬を自由に与えることができる。これは確かに労働者による設計、発明及びその他の知的財産創出奨励の一助となり、長期的には企業に利益をもたらす結果となる。企業の経営陣はまた、労働者が勤務過程で創出又は創作した成果物に関する彼らの権利及び義務について充分な認識を持つべきである。
労働者との間で知的財産所有権契約を結んだことがない企業にとって、今こそ向き合うべきときである。創出された知的財産所有権についての取り決めに加え、労働者が既に勤務を開始した後になされた合意においても、創出された全ての著作物、企業秘密及び商標の所有権を包含すべきだ。また、所有権の譲渡は両当事者により署名されなければならない。
新規採用をする企業は長期的な利益の保護に必要となる全てのものが含まれているか否かという観点で雇用契約書を見直すべきだ。使用者は労働者に対して明確且つ公正でありながら、慎重な管理と先見性で貴重な知的財産を守ることができる。