【タイ:音楽業界の著作権侵害の根絶にブロックチェーン技術を】

デジタルストリーミング社会の到来により、誰もが音楽を自身のスマートフォンなどに気軽にダウンロードして楽しめるようになった。しかし、容易になったからこそ海賊行為も増加している。また、権利関係の複雑さから楽曲制作者等に対して充分な報酬が支払われない場合も多々ある。タイではこれらの問題に対処するため、新しい技術であるブロックチェーン(分散型台帳)に注目が集まっている。
ブロックチェーン技術において、音楽愛好家は少額の手数料のみで楽曲を直接ダウンロードすることができ、その収益は楽曲制作者等に直接もたらされる。この新技術を取り入れることで楽曲購入以外にも徴収、分配履歴など改ざんが困難な形で一連の処理を最初から記録することが可能になる。
ブロックチェーン技術の使用により、楽曲制作者等はレコード会社などの仲介者を通すことなく楽曲を配信できるようになる。そしてその楽曲には固有の番号が付与され、スマートコントラクトが適用される。その後、スマートコントラクトはインターネット上で検索を実行し、曲の違法な複製を検出し著作権侵害行為を直接排除する。
以上のように、「音楽業界における著作権侵害の根絶」がブロックチェーン技術によって実現可能になると目され、全ての楽曲制作者等が正当な報酬を受け取れるようになるための特効薬になり得ると期待されている。
(Bangkok Post 2019年1月22日付記事参照)

【タイ:「より大きな予算を」知的財産の商業化促進のために提出された法案】

知的財産(IP)資産の商業化強化を目指し、タイは特許取得における人的資源の質を向上させるべきであると知財専門家は示唆している。
2019年の米国商工会議所のIP指数調査において調査対象となった50カ国のうち、タイは42位だった。「タイにとって最大の問題は特許弁理士の不足である。科学技術開発庁(NSTDA)の技術ライセンス局技術管理センターの上級IPコンサルタントであるOrakanoke Phanraksa氏は加えて「科学者、特許弁理士、製造業者の間では、ライセンス取得に関する知識と理解に不一致があることが多い」と報道陣に語った。
Orakanoke氏は、特許弁理士の育成により大きな予算を割り当てることを政府に対して求めた。
技術移転に関して提出された法案は、タイにおける知的財産資産の商業化の促進に役立つ。内閣によって可決された後に承認を得るため国務院に提出された。
「現在、政府出資の知的財産資産は、関連する政府機関と研究機関によって共同所有されている。本法案の下では、大学などの研究機関は知的財産資産の独自所有が可能になり、商業化過程をはるかに早めることができる」と彼女は説明した。
また、新政府は国の知的財産エコシステムの推進を継続すべきだと付け加えた。
米国商工会議所のGlobal Innovative Policy Centre(GIPC)の役員であるEllen Szymanski氏もOrakanoke氏に同意した。「我々はタイの知的財産エコシステムをさらに発展させるため、公的機関による継続的な努力を新政府に期待する。海外の投資家が知的財産に投資する際に最も重要視するのは政府が継続的に努力する姿勢を示しているか否かである」と彼女は述べた。
GIPCの2019年のIP指数は31.37%から32.22%へと上昇し、タイの知的財産体系の継続的な改善を示している。
上記を受け、「タイでは政府機関が知的財産問題にうまく対応できていることが見て取れる。しかし、知的財産資産の商品化の分野ではさらなる改善が必要である」とSzymanski氏は述べている。「強力な知的財産権保護の姿勢を取っている国内企業は、より多くのベンチャーキャピタル、海外及び民間からの投資を呼び込む可能性が高い」と彼女は述べ、「今後3〜5年の間に、公的機関がビジネス環境を改善するため知的財産規制改革を継続することを考えると、タイの知的財産体系は改善し続けていくだろう」と締めくくった。
(THE NATION 2019年3月25日付記事参照)

【タイ:労働者により開発された知的財産の取り扱い】

例えば商標、著作、意匠、発明、企業秘密などの知的財産(知財)は多くの企業にとって非常に貴重な資産である。それは市場における優位性及び他企業との差別化をもたらす。そのため、会社の管理者が自社のIPポートフォリオを正しく認識して管理することが重要である。
企業の知的財産は一般的に労働者によって開発又は発明されるので、賢明な企業はそのような知財が企業に属することを明確にするために必要な契約を労働者と交わすべきである。それを怠った場合は大きな問題に繫がることもある。例えば、企業が第三者に対して知的財産権を主張することができない可能性があり又は勤務時間内に同社において開発又は発明した労働者との間に問題が起きる場合もある。
タイでは、労働者により開発又は発明された知的財産の所有権は各々の知的財産関連法により異なった規定がなされている。契約書が関連する全ての問題に適切に対処し、全ての関連法に準拠していることを確認するため、経営者はその違いを理解する必要がある。
◆著作物の所有権
絵画、写真、コンピュータソフトウェアなどの著作物について、使用者と労働者の間で書面による特段の合意がなされていない場合、著作権法は著作物の所有権を開発又は発明した労働者に与えている。著作物が労働者に属している場合、使用者は事前に雇用契約に定められた当該著作物の頒布のみを認められる。一方、企業が著作物を創出するために第三者を雇用した場合、再び他の同意を交わさない限り当該著作権は使用者に属する
◆企業秘密の所有権
企業活動に有用な、誰にも知られていないノウハウ又は生産工程などの企業秘密について、営業秘密法は企業秘密としての保護に値する営業情報を発見、発明、編集又は作成した者を当該秘密の保持者と見做すことを規定している。しかしながら、雇用関係内における企業秘密の創出については具体的には取り上げられていない。したがって、両当事者が特段の合意をしない限り、労働者が所有者であると見做される可能性がある。
◆商標の所有権
同様に、労働者による商標又はブランド名の創作について、商標法では特に定められていない。それゆえ、使用者及び労働者間に特段の定めがない場合、当該商標又はブランド名を創作した労働者が所有者であると主張することもできる。
◆特許の所有権
新型コンピュータ、新しい食品保存方法などの発明及び製品の形状などの設計について、当該労働者との雇用契約に特段の定めがない限り、特許法は労働者が勤務の範囲内で開発した発明又は設計について特許を受ける権利を使用者に与えている。たとえ雇用契約書が発明や設計の問題に言及していなくても、労働者が自らの職務を通じて入手可能になった手段や情報を使って発明や設計を創出したならばこの規定が適用される。
このような場合、労働者が特許受ける権利を得られなくても、当該労働者には発明者または創作者となる権利は依然ある。使用者が当該発明又は設計から恩恵を受ける場合、労働者が通常の収入に加えて特別な報酬を得る権利もある。特別報酬に関するこの権利は雇用契約で削除することはできない。
◆知的財産所有契約
要約すると、著作物、企業秘密、商標が企業に所属する労働者により創出された場合、書面による特段の合意がない場合、所有権は自動的に労働者に帰属することになる。そのため、労働者が創出した知的財産の所有権について、企業及び労働者の間でなされた合意を明らかにすることが非常に重要である。
知的財産の所有権を雇用契約で扱うべきか又は別の契約で定めるべきかを理解していない企業もある。特許法は「雇用契約」に特段の定めがない限り、労働者の発明に対して特許を申請する権利は使用者に帰属すると明確に規定している。しかし、その他の知的財産法はこの問題に関して「合意」のみを要件としているため、労働者が創出した他の知的財産については互いの合意のみで対処することができる。使用者は、労働者が創出した全種類の知的財産について、統一した規定を雇用契約に含めることを検討するべきである。
加えて、雇用の場合、商標法及び営業秘密法は第三者によって創出又は発明されたものの所有権が自動的に会社に帰属することを明確に規定していない。したがって、雇用契約でも同様の知的財産所有権規定を明確に扱うことが推奨される。
◆知的財産の保護及び発展
特許法が設計や発明を行った労働者に特別な報酬を与える唯一の知的財産法ではあるが、企業は著作物、商標及び企業秘密を創出した労働者に同様の報酬を自由に与えることができる。これは確かに労働者による設計、発明及びその他の知的財産創出奨励の一助となり、長期的には企業に利益をもたらす結果となる。企業の経営陣はまた、労働者が勤務過程で創出又は創作した成果物に関する彼らの権利及び義務について充分な認識を持つべきである。
労働者との間で知的財産所有権契約を結んだことがない企業にとって、今こそ向き合うべきときである。創出された知的財産所有権についての取り決めに加え、労働者が既に勤務を開始した後になされた合意においても、創出された全ての著作物、企業秘密及び商標の所有権を包含すべきだ。また、所有権の譲渡は両当事者により署名されなければならない。
新規採用をする企業は長期的な利益の保護に必要となる全てのものが含まれているか否かという観点で雇用契約書を見直すべきだ。使用者は労働者に対して明確且つ公正でありながら、慎重な管理と先見性で貴重な知的財産を守ることができる。

【タイ、ベトナム:「監視国」として指定される】

米国通商代表部(USTR)が2019年4月25日、2019年版スペシャル301条報告書を公表しました。これは調査対象国のうち、特に懸念のある国を警戒レベルの高い順に「優先国」「優先監視国」「監視国」に指定するものですが、2018年に引き続き、今回も優先国に指定された国はありませんでした。

知的財産保護が不十分だとされる「監視国」には25カ国(タイベトナム、バルバドス、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、ギリシャ、グアテマラ、ジャマイカ、レバノン、メキシコ、パキスタン、パラグアイ、ペルー、ルーマニア、スイス、トルコ、トルクメニスタン、アラブ首長国連連邦、ウズベキスタン)が指定されました。

日本はいずれのリストにも指定されていませんが、日本の新薬創出等加算(Price Maintenance Premium)の基準変更は、外国企業を競争上不利な立場に置く深刻な懸念事項だと指摘されました。